荷重について考える
建物を設計する際には、その建物が倒れないものとなるように、法律では、建築前に構造計算をおこなってその安全性を確認することになっています。その計算をするためには、そもそも建物にどれぐらい力が加わるかということが分からなければなりません。それよりも先に、どのような力が加わるかを知らなければなりません。
高校や大学で建築を学ぶ場合には、力学の計算手法について教わります。計算の苦手なひとが建築技術を修得するときには、この力学の計算手法をマスターすることが結構大変だったりするのですが、演習問題や試験問題では加わる力の大きさなどは問題で与えられていることが大半です。そういう計算トレーニングにあたり前のように慣れ親しんでいくと、そもそも建物にどのような力がどれぐらい加わるかということを決めることの難しさを意識することに無頓着になってしまいます。実際には、計算のスタート時点で、建物に加わる力、すなわち荷重をどう評価するかということが、とても重要な問題となります。
建物に加わる荷重の代表的なものには、建物そのものの自重(固定荷重)、家具やひとの重さ(積載荷重)、地震の際に建物に加わる力(地震荷重)、強風の風圧力による力(風荷重)、屋根に積もった雪の重さ(積雪荷重)などがあります。建築基準法やその他の指針で、これら荷重についてどのように考えて、加わる大きさを数値として出すかということが示されています。
ものごとをプロデュースするという際にも、建築構造の設計時に荷重のことを考えるのと同様に、そもそものスタート時点で、あるプロジェクトならあるプロジェクトの実施にあたって、逃れられようのない制約条件について押さえておく必要があります。
ここで、難しいというか、面白いというか、念頭においておきたいことがあります。それは荷重というものが建物があって初めて出現するものだということです。何もない大平原では、風速何十メートルの風が吹こうと、それは単に風がふいているという自然現象でしかありません。地震においても、いくら激しく地面が揺れようとも、そこに重さを持つものが地面とくっついていなければ地震で壊れるものはないといえます。建物そのものの重さも、当然建物自体があるからこそ、存在する荷重です。で、面白いことというのは、荷重がどれぐらいのものかを決める際には、建物の大きさや重量が分かっていなければならないということです。
建てる前、設計する際に、建物の安全性を評価しようとして、そのスタート時点で荷重のことを考えなければならないのだけれど、その荷重は、建物の大よそのことが決まっていないと決まらないのです。で、どうするかというと、大よそこの線で行くということを、エイヤーの勢いで決めてしまいます。構造計算のスタートはそこから始まります。
実際には、デタラメに最初の設定をすると、何度も計算をやり直さざるを得なくなります。経験というものが大いになる助けとなって、だいたいこの線でいけそうだという寸法などにして設計が始められます。
何らかのプロジェクトにおいても同じことがいえます。そのプロジェクトにおいて、逃れられない条件、必ずそれに対応しなければならない条件について、それは必ずしもプロジェクトの開始時点で決まっているものでなく、ある程度プロジェクトの姿がはっきりしてきてから具体化されてくるものだったりします。そのため、最初の滑り出しの時点では、おおよその見込みをつけて、エイヤーの勢いで見切り発車することが必要です。そこでは経験がものをいい、すでに経験済みのプロジェクトがどうであったかを考えて、あたりをつけてスタートすることがリスクを少なく進めていくことができます。まったく、これまでに経験してこなかった新たな形のプロジェクトに取組むときにも、自分自身の体験にしろ、他人の成果にしろ、ありとあらゆる過去の例を引っ張り出して、その参考となるものから、あたりをつけるということが重要です。ということを考えていくと、新たなプロジェクトを推進するにあたっては、いかに過去の事例をストックしておくことが重要であるかということに気づきます。
まとめのメモ
プロジェクトを開始する時点では、
そこで向き合わなければならない制約条件の詳細は明らかではない。
そのため、条件の概要についてのあたりをつけてからスタートさせることになる。
リスクをすくなくするには、過去の経験や例をもとに、あたりをつける必要がある。
新しいことをする際には、過去の経験をストックしておくことがとても重要である。
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